さくら月夜



第二十九章 ふたりの未来  




このまま時間が止まってしまえばいいのに…

さくらとの別れ際、光一はいつの頃からかそう思うようになっていた。


彼女を帰したくない…

ずっとそばにいて欲しいのに…

もっともっと抱きしめていたいのに…








何度も抱き合いKissしても足りなくて

もっと君を感じたい…








逢えば逢うほど、

体を重ねれば重ねるほどに、さくらへの思いは強くなっていく。

彼女の存在は光一の中で確実に大きくなっていた。

それなのに、光一の願いも虚しく今日もまたさくらは帰って行く。







帰るなと言って強引に引き止めれば?

きっとさくらは少し困ったような顔をして、それでも静かに頷くのだろう。

それが分かっているからこそ、光一にはそうすることも出来ず、ただその後姿を見送るしかなかった。

その後ろ姿を追いかけたい気持ちを…

「帰したくないんや!」

そう叫び出したい気持ちを必死でこらえて…今日もさくらを見送るしかないのだ。





今度逢えるんはいつや?

明日かもしれん

けど…

しばらく先になるかもしれへん…

こんなままでええんか?


いつまでこのままでおるつもりや?

このままじゃ彼女を幸せになんかできへん…






光一は二人の未来を必死になって探し出そうとしていた。

何も不安のない二人の未来が欲しかった。

人目を忍ばなければならない逢瀬…

世間に公表することもできない現実…

そこから抜け出すための方法を必死になって模索していた。






















願いがもしも叶うなら…

今この瞬間(とき)を永遠に…

君と過ごす一日を二人で作っていくんだ…


























さくらは最近、光一が無口になっていることに気付いていた。

まただ…

どうしたのかと聞けば、光一は必ず「なんでもない」と小さく笑ってさくらを抱き寄せる。

もういいよ…

そんなに無理しなくても…









さくらはもう幾度となくこの部屋を訪れていた。

光一は殺人的なスケジュールの中、寸暇を惜しんでさくらと逢う時間を作り

長く逢えないときは、メールや電話で頻繁に連絡をよこす。

メールはいつもぶっきらぼうで短い文章だったが、それが逆に光一らしくて嬉しかった。

甘い言葉を囁くことなど皆無の電話でさえも、光一の声をすぐそばに感じて胸が高鳴った。

だから、同じ時間を過ごせるとき…

それは、たとえどんなに短い時間だったとしても、さくらにとっては幸せ以外のなにものでもなかった。

しかし、このわずかな時間を作り出すために、光一がどれほど無理をしているか…

さくらがそのことに気付くのに、あまり時間はかからなかった。









隣で眠る光一の頬に影が差している。

それは伸びてきた髪のせいだけではないと容易に想像できた。

「ごめんね…」

光一に聞えないように小さな声で呟いて、閉じられた瞼にそっとKissを落とす。

「ん…」

いつもならすぐに目を開けるはずが、微かな反応しか返ってこない。

その少しかすれた声が疲れを物語っているようだった。

私のせい…だね











互いを愛するあまり





ほんの少しずつ…

小さな心の歯車が狂い始めていた。
















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