さくら月夜



第二十三章 雨音に抱かれて  




激しく降りしきる雨音を聞きながら、光一は初めてさくらを抱いた。

伝えたいことは山ほどあるのに、その全てを言葉にすることなんて不可能だ。

言葉の代りに抱きしめることで、その思いをさくらに伝えたい。

知らず知らずのうちに芽生えて、時を追うごとに募っていったさくらへの思い…

自分の全てをさくらに感じて欲しくて…

さくらの全てを感じたくて…

光一はすべてをさらけ出してさくらを抱いた。

激しく降りしきる雨の中で

「愛してる」

そう何度も囁きながら…







柔らかなブラウスのボタンを外すと、さくらの白い素肌があらわになった。

光一があの日見た白い肌。

あの時、触れることさえ出来なかったその肌の白さが眩しかった。

ブラウスを剥ぐように、優しく肩から腕にかけてそっと撫でる。

細く白い首筋に唇を移し、片方の手で柔らかな膨らみをギュッと掴む。

「あ…」

少し火照り始めたさくらの身体に、光一の冷たい手はヒンヤリとして一瞬声が漏れる。

それには気付かないふりで光一の手がさらにさくらの肌を滑ると

冷たさに慣れた体には心地よい快感だけが広がっていく。

「こ・お・ちゃ…  あ…


赤い蕾を舌で転がされて小さく震える。

さくらの呼吸が少しずつ浅く速くなって

身体が熱を帯びたように熱くなり、心臓は早鐘のように打ち続けていた。

「愛してる」

そう何度も囁かれる度に、心の扉が少しずつ開いていった。

光一の手が、指が、唇が、さくらの肌を…優しく、時には激しく彷徨う。

次第に二人の呼吸が乱れてくる。

「…ん」

さくらは乱れた呼吸の中で、声を押し殺したまま光一の愛撫に身を委ねた。

「我慢せんで…ええよ。」

光一の熱い息が耳に掛かる。

「は・・・ぁん」

「さくら…」

光一の指がさくらの一番敏感な部分をとらえる。

「っや…ぁ」

さくらが小さく首を振って甘い吐息を漏らす。

仰け反る白い喉と切なげに揺れる瞳が、更に光一の本能を駆り立てた。

「さくらの声が聞きたい。…聞かせて。」

低くく甘い声で囁かれると、それだけで身体の芯が融けてしまいそうだった。

暗闇の中で激しく重なり合い一つになる影…



「あっ…ぅ」



光一は熱い感触にもっとさくらを感じたくて、その動きを止めた。

さくらもまた光一の存在を身体中で感じていた。



「さくら、熱い…」



光一の言葉にさくらの身体は敏感に反応する。

その反応を感じた光一は、自分の想いを告げるように優しくさくらの身体を愛した。



「…は…ぁんっ」



だんだんと激しくなる動きに、さくらが身体を大きく仰け反らせて切ない声を漏らす。

光一は、その声に刺激されたように、更に強くさくらの身体を揺らしていった。

ベッドが音を立てて軋む…

二人の息が更に荒くなり、光一の腕を掴んでいたさくらの指に一瞬力が入る。



さくら…。さく…  ・・・うっ!!

「ん・・・あぁっ…



身体に激しい痺れが走って、光一は自分の想いと共に全てをさくらの中に吐き出した。

遠退きそうな意識の中で、さくらの髪に唇に胸に…くちづける。

そして

今にも崩れ落ちてしまいそうな自分の身体を両腕で支え、ゆっくりとさくらの上に覆い被さった。

汗ばんだ肌と肌が重なり、その吸い付くような感触が心地よい疲れを誘う。

さくらは、まだ激しく上下している光一の肩に優しくくちづけた。



光一の重みを全身で受け取って

もしかしたら本当に愛されているのかもしれない…

そう思えてまた涙が溢れ出していた。



この幸せが永遠に続けばいいのに…



「さくら…愛してる。」

光一が強く抱きしめて優しくくちづけた。

「…うん。」

「…?」

さくらの涙に気付いて光一が少し慌てる。

「また泣いてる…なんで泣くんや?」

「…ごめん。」

「さくらは、ほんま…泣き虫やなぁ。」

そう言うと、光一は更に強くさくらの身体を抱きしめた。

ぴったりと合わさった身体のように

二人の心は、今、ようやく一つになった…







光一を受け入れた瞬間に、さくらは残っていたひとかけらの理性も捨ててしまった。

心が、身体が、そのすべてが、光一の波に飲み込まれた。

さくらは光一のすべてを受け入れた。

夢でも幻でもない、これが現実だった。





もう…後戻りはできない

今、私はこの人をこんなにも愛している…

遠くなる意識の中で、さくらは光一の思いの全てを感じていた。

ずっとずっと…この腕の中に包まれていたい

愛する光一と一緒にいられたら、どんなに幸せだろう…







窓に打ち付ける雨音を聞きながら、さくらは光一の腕に抱かれたまま深い眠りの淵へと落ちて行った。







自分の腕の中で静かに寝息を立てているさくらの寝顔は、まるで泣きつかれた子供のようだった。

何度もこの手をすり抜けていったさくらが、今自分の腕の中で眠っている。

少し泣き腫らしたその目元を見て、その頬に触れて、これは夢でも幻でもないと確信する。


もう…離さへんよ。絶対に…


愛しい人を手に入れた喜びと充足感で心が満たされていた。

今は不安なんて何一つなかった。


もう…絶対に泣かさへんから…


眠っているさくらの瞼にそっと口づけた。

さくらが一瞬だけ顔をしかめて、くるりと寝返りを打った。

「なんやねん…もぅ」

あっという間に背中を向けられて、光一は一人苦笑いするしかなかった。

そしてそんなさくらが、今は愛しくてたまらない。

頬が自然にゆるんでくるのがわかった。

シーツの下から覗いている白い肩にそっと口づける。

はぁ…

まだほんの少しだけ残っている欲望を鎮めるように、その顔を枕に押し付けて甘い溜息を吐いた。

今の光一は、この幸せが永遠に続くものだと信じて疑うことさえもなかった。



さくら…愛してる



胸の中で小さくつぶやく。

そして光一もまた、さくらを抱きしめたままで心地よい疲れとともに眠りに落ちた。



窓の外はまだ激しい雨が降り続いていた。









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