いたずらな件名


「ねぇねぇ、未来。今月号のポポロ、もう読んだ?」

「ん? …読んでないけど?」

「あのさ〜、KinKiの二人が恋愛観について語ってんのよ〜。」

「へぇ〜。でもそんなの、今更珍しくもないでしょうに…。」

「いやいや、それが違うのよ、今回は。」

「なんか変わったことでも言ってるの?」

「うん。剛は相変わらず〜って感じだけどね(笑)光ちゃんが、すごく意外だったのよ。」

「へ・へぇ〜、そうなの?」

「うん。あのね…」



会社のお昼休み…

同じKinKiファンで、同僚でもある由美に雑誌のことを聞かされてから

未来は一日中、その内容が気になって仕方なかった。

誰にも内緒だったが、実は未来は光一と2年も前から交際を続けていた。

出逢いは偶然だったが、すぐに意気投合した二人が付き合いだすまでに時間はかからなかった。

しかし、今春の追加コンが終わった頃から、会っていなければ連絡さえもとっていない状況が続いていた。

だから現在の二人は、微妙な関係といえるかもしれない。

会えなくても光一はメールや電話で時々連絡をとってくれていたが、それもここ数ヶ月はピタリと止まっていた。

光一が忙しいのは分かっているし、未来もわざわざ自分からこまめに連絡する方でもなかった。




今月号のポポロ…

光一が、自身の恋愛観について語っているらしい。

それも、ファンが意外に思うようなことを…。

一体、なんと言っているのだろう?

普通なら、交際相手の恋愛観など、直接本人から聞く場合以外は知ることも皆無だと思うのだが、

たまたま相手が人気絶頂のアイドルだったばかりに、そういった話が耳に入ってくることは日常的にあった。

それに、未来は元々KinKiのファンだったから、会わなくなってからもTV番組を見るし、CDも買っている…

最近はもっぱら立ち読みばかりになってしまったが、当然、雑誌のチェックも怠らない。

自分でもバカだ…とは思うが、こればかりはどうしてもやめられなかった。

会えないから、余計に気になってしょうがなかったのかもしれない。



「ふぅん…ちゃんと学習してんじゃん。」

帰りに立ち寄った書店で、その内容に目を通しながら、思わず苦笑いしてしまった。

そして、久しぶりに、その雑誌をそのまま購入することにした。



帰宅し着替えを済ませた未来は、ベッドの上に転がってペラペラとページを捲って、記事の続きを探した。

そして、20項目のの質問形式になった記事を、もう一度Q1から順に目を通していく。

書店で読んで思わず苦笑いした項目…

『Q4料理の上手な女性とオシャレな女性…』に『どっちもダメでもしょうがない。それはそれでいいと思っちゃう。』

くっく…確かに私はどっちもダメだよね〜。 光ちゃん、悟ったな。

『Q6二人の記念日は大切にしますか?』に『忘れるタイプ。』と即答しているところで、思わず噴出してしまった。

確かにそうだった。

クリスマスみたいなイベントは、世の中の雰囲気でどうやら覚えてるっぽかったけど、誕生日はいつも忘れてるし。

未来は、次々と項目を読み進んでいったが、どこもいままでの光一と違うような気がしない。

なんだ…いつもの光ちゃんじゃない。てか、全部「堂本光一」そのままだけど?どこが意外なわけ?

そして『Q16恋人とはまめに連絡をとるほう?』の回答を読んで、目を疑った。

「えっ?うそ…」

何の連絡もないままに数ヶ月が過ぎている現状は? どう説明するつもり?




ふぅ…


未来は携帯を見つめて溜息をついた。

もう何ヶ月も光一からの着信はない。

自分の方から連絡すればいいのだろうが、光一の尋常でない忙しさを思うとなんとなくためらってしまうのだ。

携帯を見ながらいろいろ考えていると、ふと思い当たることがあって送信履歴を辿ってみた。

私が光ちゃんに、最後にメールを送ったのはいつ?

数ヶ月前の記録が残っているだろうか?と少し心配になりながらもボタンを押して履歴を探した。

…あった!

『送信日:6月20日15:27  件名:これで一緒だね♪』

内容は、新しいアドレスや番号を知らせるものだった。

そうだ!思い出した!!


送信日の前日、未来は今まで使っていた携帯を、光一が使っているものと同じ機種に変更したのだった。

発売されたときから人気の機種で、2ヶ月待ちでようやく手に入れたものだ。

光一をビックリさせたくて、同じ機種を予約していることはもちろん、携帯を変えることさえも伝えてなかった。

ま、まさか…ね。

嫌な予感が未来の頭をよぎった。

時計を見ると、まだそんなに遅くない時間だ。

大急ぎでメールを打ち始めた。

『件名:未来   内容:光ちゃん、元気?』 たったそれだけだった。

一番下には新しい署名を貼り付けて送信ボタンを押した。

そして未来は携帯をベッドの上に置くと浴室に向かった。



お湯の調整をしてから戻ってくると、ベッドの上で「永遠の日々」が鳴り響いている。

「えっ?!光ちゃん?」

いつもなら、光一からメールが返信されるのは、早くても数時間後。

しかも今回は、メールではなく、いきなり電話だ。

未来は、慌てて携帯を手に取り、通話ボタンを押した。

おまえっ!何やっとんのやっ?!

「きゃっ…」

いきなり大声で怒鳴られて、思わず携帯を耳から遠ざけてしまった。

向こう側では光一が興奮冷めやらぬ様子で、まだ何やら怒鳴っている。

「おいっ、未来! 聞いとんのか? …返事しろや〜」

呆然と携帯を見つめていたが、光一の口調が少し落ち着いた頃、未来がおずおずと口を開いた。

「…もしもし」

「未来か?」

「うん。」

「おまえ、何しとった?」

「何って?」

「今まで何の連絡もよこさんと、何しとったんや…て聞いとんのや。」

「連絡って…光ちゃんだって同じじゃない。何言ってんの?」

いきなり、連絡しなかったことを大声で責め立てられて、少し拗ねたふりをした。

「はぁ〜? なに言うとんねん! 勝手に連絡取れんようにしとったんは未来の方やん。」

「え? 光ちゃん…もしかして。」

「もしかして、何や?!」

「私のメール、見た?」

「おぅ、見たで。やから電話しとんのやろ?」

「そうじゃなくて、携帯替えたからってメールで連絡したでしょ?」

「はぁ? そんなメール届いてへん。」

「うそだ〜。私送ったもん、6月20日に。ちゃんと送信履歴も残ってるよ。」

「6月〜?!」

「うん。」

「見てへんで…そんなメール。」

「え〜? う・うっそぉ。」

「見とったら、アドレスだって変更しとるやん。今のメールやって、知らんアドレスで届いとるもん。」

「あ…」

「なんや?」

「私、件名に自分の名前入れてなかった。もしかして…それが原因?」

「そっ、それやっ! 知らんアドレスから届いたメールなんか、読まんと捨てる可能性大やん。 件名なんや?」

「う…ごめん。私、光ちゃんと同じ携帯になったことが嬉しくって、つい…『これで一緒だね♪』って。」

「あほかぁ〜。 そんな件名、即刻削除やな。」

「…だよね。出逢い系の迷惑メールと思われたんだ。」

未来は、いやな予感が的中したことにシュンとしてしまった。

「なんや、そういうことか〜。 未来のドジには慣れとるけど、まさかここまでとは思わんかったわ。」

光一は、呆れたような声でそう言うと、チカラなく笑った。

「ごめん。」

「アハハ…ま〜誤解は解けたことやし。 俺もホッとしたわ。」

「うん。ほんと、ごめん。」

「ほんまに心配しとったんやで。 俺、振られたんかな〜って、マジでへこんどった。」

「うっ…」

「そうや、明日土曜やん。未来、休みやろ?」

「うん。」

「なら、これから罰ゲームやな。  くっく…」

「えっ?何?罰ゲームって…。」

「これから、俺んとこに来い! すぐにや!ええな?」

「えっ? 今から?」

「俺な、明後日までオフなんや…。」

「ほんとに?」

「あぁ。 そやから、今までの時間…取り戻そうや。 」

照れてだんだん小さな声になっていく。 そんなところがまた光一らしかった。

「光ちゃん…」

「二度と言わんで! えぇか? はよ来いや!今すぐにやっ!」

「うん♪」

5分後、未来は新しい携帯を握り締めて、部屋を飛び出していた。






あとがき

光ちゃんは未来の家も知らないの?て突っ込みは「なし」でお願いします(^_^;)
それにしても光ちゃん、携帯で連絡取れないからって、何ヶ月も放っとくなや〜ですね( ̄▽ ̄;)あはは・・
今回は、先月号のポポロと、ずっと前に「歌の大辞典」のコメントで、剛くんからのメールが届いてないと言ってたことを参考にしました。

書き終わって気付いたんですけど…私の書く主人公の性格って、毎回どうしようもなくドジで早とちりですね(^_^;)
光ちゃんの好きなタイプが「しっかりしてるけど、どこか抜けてる静香ちゃんタイプ」だからでしょうか?



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