消えない悲しみ 消せない記憶 V




光ちゃん

今、あなたがこの手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にいないということですね。
あんなに約束したのに、先に旅立ってしまう私のことを許して。

私は光ちゃんと出逢えてよかった。
光ちゃんを愛せて、光ちゃんに愛されて…私は今日までずっとずっと幸せだったよ。
たったの2年間だったけど、一生分生きたのと同じくらいの2年間だった。
今、こうしていても思い出すのは光ちゃん…あなただけ。
もっと一緒にいたかった。ずっと一緒にいたかったよ…光ちゃん。
だけど、私にはもうあまり時間がないみたい。
少しずつ体力も落ち始めているのがわかるから、まだ書けるうちにこうして手紙を残しておくね。
最初で最後の手紙をこんな形で書くことになるとは思わなかったけど(笑)
これが最後だから…いつもの光ちゃんらしく笑いながら「未来らしい手紙やな。」って言ってね。

本当のことを知ったとき…
光ちゃんの前から私自身が消えてしまうことがとても怖かった。
もう光ちゃんに触れることも、抱きしめてもらうことも…その声を聞くことさえも出来なくなってしまう…
そう思っただけで涙が溢れて止まらなかった。苦しかった…
あの頃は毎日のように、光ちゃんの顔を見るたびに泣いてたよね。 
ひどい言葉をぶつけてしまったこともあったね。
精一杯支えてくれてた光ちゃんのこと、困らせてばかりだった私を許して。
本当にごめんなさい。

でもね、今はこう思えるの。
「私は光ちゃんに出逢えてよかった」って。
こんな風に最後まで一緒にいられるなんて…私、こんなに幸せでいいのかな?(笑)
ずっと一人で生きてきた私に、神様がくれた最後の贈り物…光ちゃん、それはあなたよ。
光ちゃん、あなたが最後に出逢えた最愛の人だから。
今、私はとても幸せ。
私を愛してくれてありがとう。
私を幸せにしてくれてありがとう。
今ね、「私は堂本光一を愛してます!」って、大声で叫びたいくらいだよ
あ…笑ったでしょ?(笑)

ただ、心残りがあるとすれば…それは一つだけ
私は光ちゃんに何もしてあげられなかったってこと。
光ちゃんを幸せにしてあげられるのは、きっと私以外の人だから…

だから光ちゃん
いつの日か、必ず愛する人と幸せになってね。
それが私の最後の願いです。
お願いだよ…光ちゃん、かならず…絶対に幸せになってね。
幸せになってなきゃ、化けて出ちゃうから覚悟してて(笑)
それから…身体には十分気をつけて。
光ちゃんはちょっと無理をし過ぎるから、それがちょっと心配。

書きたいことは尽きないけど、もうこのくらいにしておきます。

光ちゃん、今日の日まで本当にありがとう…そしてさようなら。

             あ・い・し・て・る

最愛なる堂本光一様                  麻生未来
























事故の2ヶ月後…未来は笑顔と一枚の手紙を残して逝ってしまった。

あの日、俺が未来を呼ばなければ、彼女は事故に遭うこともなかったはずだ。

そして、俺と出逢っていなければ、彼女は死ななくて済んだのかもしれない…

こんな切ない手紙一枚を残して、たった一人で逝ってしまった未来…笑って読めって?

そんなことできるはずないやろっ!!

未来…

なぁ、これから俺はどうやって生きればいい?





ひっそりと執り行われた葬儀の後、その日から俺は狂ったように仕事に打ち込んだ。

がむしゃらに働くことで、愛する者を失った現実から逃げ出したかった。

たとえ一瞬でも忘れられるのならば…それは何でもよかった。

けど…心にポッカリと空いた穴は、未来以外の何ものにも埋めることなんてできなかった。

冷たくなった未来の手を握っている夢を何度見ただろう…

そして未来が残した手紙を、俺は何度読んだだろう…




















あれから1年が過ぎた。

何度も読み返してボロボロになった手紙は、今も俺のポケットの中にある。

あの頃の悲しみは、少しずつ癒えているように思えるけれど、決して消えることはない。

そして、たとえこの先、別の誰かと出逢いその人を愛したとしても、

未来、おまえのように愛することが出来るか…今の俺にはまだ自信がない。

いつになったら約束を果たせるのか…いつか約束を果たせる日が来るのか?

俺にもわからない。

ただ…

未来、俺はずっと幸せやったよ。

未来と出逢えて、未来を愛せたことは幸せ以外の何ものでもなかった。

ずっと忘れない…忘れることなんかできやしない













未来…あ・い・し・て・る










                     



三話あとがき

すみません。先に謝っちゃいます(^_^;) あぁ〜短編って難しい…
言い訳がましくて申し訳ないのですが、最後は「あとがき」というよりも「解説」だと思って読んでくださいませ<(_ _)>

未来は手術の際の血液検査で「急性骨髄性白血病」であることが判明します。
大怪我をした直後で、その治療に耐えられる体力もなく…かといって怪我が治るまで待つ時間は、もう未来には残されていませんでした。
この病に怪我は命取りとなります。
そして、医師の治療と光一の懸命な看病も叶わず、未来は死んでしまいました。
未来が手紙の中で「たった一人で生きてきて…」と書いていたくだりがありますが、未来は幼い時に両親を亡くし施設で育ったという設定にしたからです。
未来が家族のことを光一に話してなかったのはそれが理由だと解釈してください。

実は、最初に考えていたストーリーはもっと別物だったのですが、それでは光ちゃんの苦しみが尋常ではなくなってしまうため、痛すぎて私には書ききれませんでした。
というより、今の私の力量ではその悲しみと苦悩を表現する方法が見つけられませんでした。
お話を書いている時の苦労は尽きないのですが、今回ほど自分の不甲斐なさに凹んだのは初めてでした。
これからもっともっと勉強して、いつか必ず書き上げたいと思っていますので、それまで長い目で見ていただければ…と思います。

最後まで目を通していただき、ありがとうございました<(_ _)>



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