ドキドキすること


ヒュィーンッ

『光ちゃん、いる? これから行ってもいいかな? 未来』

夕方近くなって、光一が仕事に出かける準備をしていると、突然未来からメールが届いた。

珍しいな…急に来るやなんて


光一はメールで返信するのがもどかしくて直接電話で返事をした。

「もしもし、未来か? おるけど…もうちょっとしたら出かけんで。 それでもええか?」

「うん♪ 実はもう下まで来てるんだ〜♪ 急に光ちゃんに逢いたくなっちゃって…チョットだけいい?」

「ええよ。勝手に入っとって。俺、これからシャワーするし…」

「うん、わかった。 じゃ…」

嬉しそうに携帯をバッグにしまうと、未来はエレベーターに乗ってボタンを押した。

真っ白いフワフワしたロングコートを羽織って、ハイヒールで歩く足取りがなんとなく危なっかしい。



ガチャン…



部屋の鍵を開けて中に入ると、そこに光一は居なくて、バスルームからシャワーの水音が聞こえていた。

未来は脱いだコートをソファに掛けると、側にある大きな鏡の前でクルリと廻って、ワンピースの裾を翻した。

友人の結婚披露パーティに出席した帰りだったから、いつもよりほんの少しドレッシーなワンピースを着ている。

いつもと違う自分を光一に見せたかった。

「光ちゃん、何て言うかな? ふふ…」

スカートの裾をちょこっとつまんで、心なしか赤い顔で鏡の中を覗き込む。

!!!

その時、鏡のすみに映った自分のコートを見て、突然ひらめいた考えにニンマリと笑った。

…んふふ〜♪ いいこと考えた〜♪









「未来〜?」

光一がタオルで頭をゴシゴシ拭きながらバスルームから出ていくと

「じゃ〜ん! どぉ?」

未来がコートを羽織った姿で両手を広げて、誇らしげな表情で光一の前に立った。

「おっ?! どうしたんや? 初めてやんな、そんな格好見るん。」
う…めちゃくちゃ可愛え〜〜っ!!

光一は平静を保った振りで答えた。

「今日ね、友達の結婚式だったんだ。 んふふ♪ どうよ?」

「そやったんか。似合うてるやん。馬子にも衣装とはよう言うたもんや…アハハ」
んなもん、照れくそうて言えるかいっ!

「ひっど〜! でも、まぁいいや。 ここまでの反応は大体予想してたし…ふふん♪」

「ん?」

光一は、なんとなく意味ありげに笑う未来が気になり始めた。



「んふっ♪ もっといいもの見せて、あ・げ・る♪」

頬を上気させて少し潤んだ瞳を向けるその表情は、明らかにいつもの未来とは違う。

「未来…おまえ、酔っ払っとんな?! 酒、飲んだんか?」

「飲みましたよ〜♪ だって『乾杯』しなくっちゃなんないでしょう?お祝いなんだも〜ん♪」

「飲んだんかい…。あんな〜未来、乾杯やってな、口付けるだけでええねんで?!」

「は〜い。わっかりました〜。今度から光ちゃんの言うようにしま〜す♪キャハハ」

こいつ…全然聞いてへん…

アルコールにめっぽう弱い未来は、少しでも酔っ払うとその言動が支離滅裂になる傾向にあった。

おまけに酔った時の自分の言動を全く覚えていないという…始末の悪さも持ち合わせている。

「あ〜も、酔っ払いの相手しとる時間なんかないねん!仕事行かな。」

「あ…ん。待ってよ、光ちゃん。こ・れ!」

「あん?」

未来がコートのボタンを指差しながら小首をかしげている。

「自分で脱げない〜。 ねっ? お願い♪」

「はぁ?」
マジですか?未来さん…

「ったく、この酔っ払いが〜。これ脱いだら、適当に俺の服着とってええから。」

そう言いながら、フラフラしている未来を自分の方にグイッと向けさせる。

「酔いが醒めるまで絶対外に出たらあかんで?!ええな?それから・・・・・」

光一はブツブツと小言を言いながら未来のコートのボタンを外しにかかった。

ぇ…えぇっ?!!

次の瞬間、光一の目がテンになる。

「未来っ!おまっ…なんやこの格好?! ま・まさか、これで結婚式行っとったんやない…よな?」

「キャハハ…。そんなわけないでしょ!着てった服は、ほらそこ。」

ソファの上のワンピースを指差しながら未来は笑い転げていた。

「あ…そりゃそうやな。」
あ゛〜なに酔っ払いに納得させられてんねん…俺は

白いコートの下…未来は淡い色のキャミソールとフレアパンティだけの姿だった。

「んふふ〜♪ 光ちゃんったら、好きなくせに♪」

あかん…こいつ完璧に酔っ払っろうとる

「TVで見たも〜ん♪ や〜らしい顔してリカちゃん着せ替えしてたでしょ♪」

げっ…あれ見たんかっ?!

「あ・あれはネタやん…。」

酔った未来相手にしどろもどろで答えながらも、目はその下着姿に釘付けになっていた。

あ・あかん…ヤバイやん。 これから仕事やのに…





ピンポーン♪

その時、タイミングよくチャイムが鳴った。





「あ〜、マネージャーが来てしもた〜。急がな…」

「え〜?もう行っちゃうの?つまんな〜い。」

「仕方ないやん、仕事やし…。」
う〜俺かて、このまま行きとうないわ…

「うん…」

「ほな、行ってくるから。ええか?ちゃんと着替えて、酔いが醒めるまでは絶対部屋から出たらあかんで?!」

「うん。わかった。行ってらっしゃ〜い♪」

未来はニコニコ笑って手を振っている。

「ほんま…大丈夫やろな?」

「だいじょうぶ♪だいじょうぶ♪」

「雑誌の取材だけやから。 俺が帰るまで…待っとって。」

「はぁ〜い♪」

そして、玄関に向かう途中、光一が思い出したように未来の方を振り返った。

「あ…」

「なぁに?」

「あの…な。」

「うん?」

赤く照れた顔を未来の耳元に近づけると小さな声で言った。

「俺が帰って来た時…な。も一回、これで迎えてくれへん?」
あ゛〜何言うてんねん、俺は!!

「きゃはは♪ いいよ〜。 待ってるからね♪」

ニコニコ笑って返事をする未来の額に、光一が赤い顔のまま軽いKissをする。

「ほ・ほな…行ってくるから。」

「行ってらっしゃ〜い♪」















「ただいま」

「あ…光ちゃん、お帰りなさい。」

「あ・あれっ?」

「何?」

「い・や、なんでも…ない。」

「何よ。光ちゃんったら…」

未来のやつ、やっぱ忘れとるやん。 はぁ…

「何ブツブツ言ってんの?」

「何でもない…て。」

「変な光ちゃん!」

「おまえな〜。 二度と酒飲むなやっ! ええな?! 」

「???」

これは命令やっ!!わかったな?

「光ちゃん…何怒ってんの?」

未来は、訳がわからずポカンと口を開けたまま光一を見ていた。

「はぁ…もうええわ。風呂入る…」








あとがき

その日の夜…
いそいそと帰宅した光一を迎えてくれたのは、彼のトレーナーとスウェットを着てキッチンに立つ未来だったことは言うまでもありません(笑)

遊ワク☆遊ビバ「銀ブラ編」を見た瞬間にひらめいたお話です。
酔っ払った未来に振り回される光ちゃんを可愛く書きたかったので…(笑)



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